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◆グッギングの芸術家達の家 (Haus der Kuenstler in Gugging):
1950年代の終わり、グッギングの精神科医が、患者たちにリハビリのため絵を描かせたところ、芸術作品として高い評価を受け、やがては画家ジャン・デュビュフェによりアート・ブリュ(ArtBrut)の重要なアーティストとして数えられることとなる。1981年、住居・アトリエ・ギャラリー・コミュニケーションルームが併設した「芸術家達の家(Haus der Kuenstler)」を設立。特に才能のある患者をここに集め、精神病治療を行いつつ創作活動の場とする。1990年、オスカー・ココシュカ賞がグッギングの芸術家達に授与。1970年ウィーンでの展覧会以降、今日まで世界中で200もの展覧会が開催。日本では2000年に世田谷美術館の特別展で紹介されている。 *芸術家の家オフィシャルサイトはこちら。 数年前、ドキュメンタリー映画「遠足 Der Ausflug」を見ました。ウィーン近郊の精神病院内にある「芸術家達の家」を扱った映画です。当初、精神病のリハビリの為、絵を描かせたところ、その作品・才能が高く評価されて一躍脚光を浴びた精神病患者=画家の病院内での日々を綴った物語。映画の中では、ウィーンやプラハでの展覧会の成功の様子が描かれていました。「遠足」という題名の意味するところは、閉ざされた精神病棟を離れて、画家としてあちこちの展覧会へと出向く様子からきています。それでも結局はこの精神病内の家に戻って来るわけだけれど。。 その映画に誘ってくれたNさんが旅行でウィーンに来た機会に、一緒にグッギングへ出かけました。マリア・グッギング(Maria Gugging)は、ウィーンの北西、修道院とワインの町クロスターノイブルクの少し先に位置する山間の小さな村です。 グッギングに着けば場所なんてすぐ分かるだろうと思いきや、村には閑静な住宅が並んでいるだけで、ギャラリーらしき建物は見えず。立派な一軒家で庭いじりをしていたおじさんが声を掛けてくれました。全くオーストリアの田舎の人は親切(+暇)です。しかし「芸術家達の家」の場所を尋ねたところ、「???」。ああ、こんなに小さな村なのに…。 とりあえず村唯一の病院の場所を教えてもらうと、そこは村の入口手前にあったのでした。予想とは違ってごく普通の総合病院。とりあえず標識に沿って、精神科病棟へ行ってみました。池を超えたところにある建物のまわりには、患者さんらしき人たちが日向ぼっこをしています。そして私たちに声を掛けてきます。かなり変な人たちだ、、あぁ、やはりこっちは単なる普通の精神病棟だったか…。 ![]() 別の標識をみるとちゃんと「Haus der Kuenstler」と書いてありました。一応、世界各国で展覧会も開かれるアーティスト集団ですからね。場所は広い敷地のかなり奥でした。アスファルトの坂道をテクテクとのぼることしばし。車で行けばよかったと少々後悔。それでも秋晴れの並木道の散歩は気持ちいい。坂を上まで登ると一面山の景色で、いかにもウィーンの森風。聞こえるのは、マロニエの木々から時々ポテッポテッと実が落ちる音。 丘の上には教会がありました。秋晴れの空に、白が映え、こじんまりとして清楚な雰囲気。覗いてみると、優しそうなシスターが手招きして、中に入ってくるよう呼びかけてくれました。とても柔和な顔をしたおばあさんでほっとさせられます。ステンドグラスも綺麗。祭壇画はここの芸術家達の手になるものだとか。 教会の先にギャラリーの建物がありました。あちこち改修中の様子。ごみ箱やベンチや鉄格子の細部が彩色されているのが面白い。画家の一人ヨハン・ガルバーさんの手によるものでした。 その先が目指す芸術家達の家。カラフルに彩られた家の姿が目に飛び込んできました。しかし家のすぐそばにはなぜかテニスコート。この日は金持ち風ロシア人達のトーナメントが開かれている様で、飛び交うロシア語とテニスボールのパコンパコンという健全な響きが、芸術家の家にはミスマッチ。。一方で周囲の畑では、トラクターがのんびりと畑を耕しています。。 ![]() この人は、風貌といい、画風といい、「山下清」風。色使いは、「ジミ-大西」風でもあります。ガルバーさんは、1947年ウィーンの南、ヴィーナーノイシュタット生まれ。19歳の時初めて精神病治療を受け、1981年以来ずっと「芸術家の家」での生活を送っています。 彼の絵の特徴は、まず細かなペン画が多いこと。絵の細部に至るまでとにかく執拗に描きます。普通の神経ではちょっと描けないかも。最近は色付きの絵も多く、周りのもの何にでも色をつけたがるようです。とにかく落書き大好きな幼児と似てますね。周囲のベンチや木々に至るまでカラフルに塗られているのは、彼の仕業。。 家の裏手には、あずま小屋がありガルバーさん専用の机とイスが置いてあります。壁一面に彼自身の写真をはじめ、絵葉書、新聞・雑誌のスポーツ選手やヌード写真の切り抜きがビッシリと張られており、それぞれに細かな字でコメントが書かれています。やはり普通の神経ではありません。ともあれ、ガルバーさんは、自分自身の世界の中に身を置いた上で、作品を描いていく人のようです。 ![]() 鉛筆、色鉛筆書きによるごくごくシンプルな絵が特徴。黒い鉛筆で輪郭を書き、中を色鉛筆で塗りつぶすだけです。幼児的な絵ではありますが、かなりセンス良し。ジャン・デュビュフェが名づけた、精神異常者のアートであるアート・ブリュ(Art Brut)の重要な一画家として位置付けられた人でもあります。1926年にブラチスラヴァ(現スロヴァキア首都)生まれ。「芸術家達の家」に1981年以来住んでいたのオリジナルメンバーでしたが、1996年に69歳で亡くなりました。 彼らの中で、おそらく一番有名なのは、オズワルド・チルトナー(Oswald Tschirtner)さんでしょう。彼の絵は(嫌な言い方をすれば)一番売れていて、商品として高額な値段がつけられています。チルトナーさんの絵は、とにかくシンプルで味わい深い。ムーミンに出てくる「ニョロニョロ」のようなひょろひょろとした不思議な人間を描きます。 1920年生まれだから、もう85歳。戦時中フランスの収容所に捕らえられ、1946年にオーストリア帰還。その後、精神異常をきたし、1954年にグッギングの精神科に。1981年からの「芸術家達の家」のオリジナルメンバー。 ![]() 帰り道は黄色い帽子を被ったチルトナーさんと並んで歩きました。病院を出たところにタバコ屋があるのですが、土曜の午後で閉店。その隣のバス停のベンチに座って、ただただ「ぼおっ」としていました。 彼らの絵の人気の一番の要因は、精神病院の患者の絵という点にある事は否めません。元来、彼らに才能が備わっていたんだろうか?という疑問もわいてきます。ガルバーさんはじめ何人かは明らかに天才でしょう。でもそうじゃないと思われる人もいますから。。 しかし、そもそもそんな疑問自体が、的外れかもしれません。彼らはやはり精神を病んでいるが故のオリジナリティーがあります。それは単にピュアや無垢だということではありません。むしろ人間のネガティブな部分(エゴイズム、嫉妬、欲望、etc.)を、恥ずかしげもなく赤裸々にあばいています。そして同時に、そこには芸術家特有の「打算」が全く無いように感じます(勿論、彼らの絵を商品として扱う周りの連中は打算だらけですが…)。 そもそも、絵というのは何のために描かれるのか?芸術って何のためにあるんだろう?という根源的な疑問が、彼らの絵に接していると沸き起こってきます。 ともあれ、ここであったチルトナーさんや、ガルバーさんは、かなりぼおっとはしてましたが、ごくごくおとなしいおじさん達でした。少なくとも秋晴れの空の下の、マロニエの並木道では。 ◆最近の展覧会予定: Museum La Maison Rouge, Paris (F): 22. Juni bis 9. Oktober 2005 Österr. Galerie Belvedere, Wien: 7. September 2005 bis 29. Jänner 2006 Frauenbad, NÖArt, Baden/NÖ: 8. September bis 31. Oktober 2005 Galerie Hilt, Basel (CH): 1. Oktober bis 12. November 2005 Investkredit Bank AG, Wien: 4. Oktober 2005 bis Jänner 2006 Sigmund Freud Museum, Wien: 6. Oktober 2005 bis 24. Februar 2006 Gallery Yukiko Koide, Tokyo (J): Oktober 2005 by hummel_hummel | 2005-09-26 23:55 | 美術紀行
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