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“ああ原田直次郎君は逝いた。もし明治の油画が一の歴史をなすに足るものであるならば、原田の如きは、必ずや特筆して伝うべきタイプであるだろう。・・・しかし世人は原田の名を忘れてから最早十年になるだろうから、原田と親交ある人は、やはり世人に忘れられてしまったものに多かろう。私などもその一人である。” 森鴎外の随筆「原田直次郎」の冒頭。画家として不遇だった友の死の知らせを聞き、筆をとった文章には、左遷人事で小倉に送られた当時の鴎外自身のやるせない思いも感じられます。 “私が原田と相識になったのはBayern国Muenchen府での事であった。もと南独逸は文が勝っていて、北独逸の武を以って国を建てて居るとは趣が違って居る。いわんや当時はかのRichard Wagnerのために劇部を立てた憐才のLudwig王がまだ位に在った時である。” 原田はミュンヘンを舞台にルートヴィヒ2世も登場する「うたかたの記」の主人公・巨勢のモデルでした。この追悼エッセイの中、鴎外は友の画業を称えつつも、そこは異国の青春時代を共に過ごした間柄。幾つかのカラフルな思い出も蘇ってゆきます。 まずは一方的に原田を愛していた女性、チェチリエ・フィック(Caecilie Fick)。ヴュルツブルク大学教授の娘で、美しく教養もあった才色兼備の女性。ドイツ語の不得意な原田のためにまるまる一冊の本をフランス語に翻訳までしたとか。(*原田は東京外大で仏語を学びました) “そういう風に女はつきまとう。原田は逃げまわる。女は何故原田が吾愛汝の一語を惜しむかを解せないのであった。それは無理もない。傍らから見ている日本人も解せなかったのであるから。” そして、「うたかたの記」でおなじみのMarie。小説とは違い、実際のマリイはそれほどの美女でも機知に富んだ女性でもなかったようです。以下、「独逸日記」より。 “原田直次郎其妾宅をLandwehrstrasseにトす。妾名はマリイMarieフウベルHuber氏。かつてミネルワ骨喜店Cafe Minervaの女たり。容貌甚だ揚がらず。面蒼くして躯痩す。又才気なし” 美人で家柄もよいチェチリエから逃げ周り、身分の低く特別の綺麗でもないマリイと恋人の間柄だったことを鴎外は不可思議に思っていた様子です。しかし、当時は鴎外も知らなかったのですが、そもそも原田は国に妻を残していたのでした。 帰国の際、マリイと一緒に友を見送ります。「原田直次郎を送るなり。愛妾マリイも亦た侍す。原田の遺子を妊めり」 おっと、マリイは原田の子を妊娠していたのですね。うーむ、これでは「舞姫」太田豊太郎ではないですか。。 とはいえ随筆の最後には、原田の妻と家庭をフォローしています。 “私の友人にも女房持のものは少なくないが、その家庭を覗って見て、実に暖かに感じたのは原田の家庭である。・・・原田と細君と子供四人と、そこに睦まじく暮らしていて、私が往けば子供は左右から、おじさんと呼んで取りついた。・・・想うに原田は必ずしも不幸な人ではなかった。” エリスとの恋、先妻との離婚、妾の存在、再婚した妻との不仲も子供達は溺愛した鴎外自身へのフォローのようにも思えますね。 P.S. 「おう外」の正確な漢字変換できないので「鴎外」で代用です。引用部分の幾つかの漢字も変換できず。。 ■関連記事:うたかたの記~シュタルンベルク湖 by hummel_hummel | 2005-11-21 03:47 | 文学紀行
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